いきおいで松井玲奈

いきおいで松井玲奈さんその他好きなものについてワーキャー言う備忘録

「新・幕末純情伝」 2016年版 ネタバレ感想1

 ・新・幕末純情伝

 

松井玲奈さんが主演をつとめる、つかこうへい7回忌特別公演 「新・幕末純情伝」をみてきた。

すごかった。すごすぎて吐き気がした。

比喩表現ではなく、ほんとに新宿から家へ向かうあいだ、ヴォエヴォエえづきながら移動した。つらかった。

 

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徳川260年の泰平の世が、今まさに崩壊せんとしている文久3年。
武士になりたい一身で、京都への道を急ぐ一群の男達がいる。
近藤勇率いる、新撰組
その隊士の中に「女」がいた。沖田総司
小さい頃から男として育てられ、
ただひたすら剣の修行を強いられてきた孤独な女――。
風雲急を告げる、時は幕末。
勤皇、佐幕が入り乱れる動乱の京の街で、
総司は愛する土方歳三のため、
一人、また一人と勤皇の志士たちを斬り続ける。
そして、そんな総司の前に、一人の男が立ちふさがった。
その男こそ、日本に新しい時代をもたらす男。土佐の龍、坂本龍馬――。
裏切りと憎悪渦巻く暗黒の時代、
総司と土方、そして龍馬の胸を焦がす、熱い恋の行方とは?
そして、勝海舟桂小五郎・・・ 幕末の若き志士たちが夢見た、
新しい時代の夜明けとは?

http://bakumatsu2016.com/より

作:つかこうへい

演出:岡村俊一

出演:松井玲奈石田明細貝圭早乙女友貴、味方良介、荒井敦史伊達暁、永田彬

 

 

・感情を浴びる

 

 

 大砲の音がとどろいて、舞台の幕があがる。そこから先の2時間10分は、あっという間だった。

怒涛のような言葉の応酬と、目まぐるしいストーリー展開。汗と唾を光らせて叫び、笑い、泣き、刀を振り回す役者さんたちに、心を持っていかれる。息をのむような殺陣や、クレよんしんちゃん的なギャグ(大好き)、きらっきらのダンスなどが舞台を彩る。

そしてクライマックス、菊姫である沖田総司が刀を抜く。それまでの物語のすべてが意味を持って、その一点に収れんしていく。

 

すごいもんみたなー。

盆暮れ正月と葬式が一気に押しかけてきて、血走った眼でガンつけながらゼロ距離で汗と涙と涎を飛び散らせつつぴーひゃらぴーひゃら踊り狂ったあげく、心のいちばんやわらかいところをぐぐーっと突き刺して、風に吹かれて去っていく。

意味わからんが、そんなかんじの体験でした。

 

正直なところ、初回の観劇では話の筋を理解しきれていなかった。

でも、それはあまり問題ではなかったように思う。あと物語だけ見たらたぶんそんなに好みでもない。こんなこと言うと怒られそうだけど。

私にとって今回の舞台で大事だったのは、話の筋そのものではなかった。物語に触れられた登場人物たちの感情の放射に、じかにさらされるための空間だった。

たとえば、スワヒリ語で怒鳴り散らしている人がいたとして、何を言っているのかは分からなくとも、その人が怒っていることは分かる。血まみれでうめく人を見れば、けがの理由を知らなくても、その痛みを想像して自然と顔がゆがむ。電車の中で泣く人を見れば、事情を知らずとも胸がしめつけられる。

そういうのと、たぶん同じ。

全身から発せられるむき出しの感情は、それだけで力を持つことがあるのだと知った。

 

・誠

人は変わっていく。

総司をとりまく人物たちも、坂本と以蔵を除いて、激動の時代のなかでその立場を二転三転させていく。

新選組の面々は、肺病の総司をつまはじきにすることなく快く迎え入れた。人斬り役として総司を便利にパシりつつも、あたたかな時間を築いてきた。彼らは、夢見た新しい時代を前に自分たちの命が危ないと知るやいなや、総司ひとりに泥をかぶせて自分たちだけが生き残ろうとした。

貧民の出の桂は、餓死していった弟たちのためにも、誰もが飢え苦しまずに済む世の中を作ることが自分の天命だと語った。彼は自分が出世したとたんに、私利私欲のための権力闘争にとりつかれてしまった。

総司の恋人である土方は、「百姓に肺病はうつらないよ」と、総司を受け入れた。だけど最後の最後で、「キスなんかできるかよ!」と総司を突き放した。

総司だって、土方から坂本に心をうつしつつあった(大正解だよ!)

 

じゃあ、裏切ったり心変わりしてしまった彼らは、ずっと嘘をついてきたのかというと、そうじゃない。

土方や新選組の面々が総司を愛したのも、総司の土方への愛情も、桂の志も、一瞬一瞬を切り取って見てみれば、どれも本物だった。嘘じゃない。

その儚さがかなしくて、だからこそ誠実でいられる時間が尊い。

桂の言葉に、「俺はな、困っている人がいたら手をとってともに助けあえるような、誰もが明日を夢みられるような、そんな時代がつくりたいだけなんだよ!」という叫びがあった。坂本が掲げ、総司や新選組や桂たちがもとめた新しい時代というのは、人が最大限誠実でいられる時代とイコールなんじゃないかと思う。

 

 ・新・幕末純情伝 再演して

今回の公演中に、5回見た。でもまだ見たいよー。

再演してください。

松井玲奈さんはずっと、役者になりたいと宣言してきた。それも舞台で活躍する役者にあこがれている、とことあるごとに語ってきた。そんな玲奈さんのSKE卒業後の初舞台、オタクとしては期待もでっかかったけれど、正直不安もあった。

いきなりの主演、しかも演劇どしろうとの私ですら名前を知っているつかこうへいの作品。この舞台への評価が、今後の松井玲奈のキャリアを大きく左右することになるだろう、というのは想像がついた。もうちょっと脇の方からじっくりっていう道もあるんじゃ……でも年齢がな、20も半ばだからな。とかとか、いらんことを色々と考えもした。

むだな心配でした。

初めて観劇してから一か月以上がたったいまも、こうしてぐるぐると舞台のことを考えている。そのうえこうしてぐだぐだと語っている。それだけのエネルギーを宿した舞台だった。

昔、下北沢で一度だけみた舞台があまりにもあまりにもつまらなさすぎて苦痛で、それ以来小劇団的な演劇に良い印象を持っていなかったんだけど、そんな印象をきれいにふっとばしてくれました。

こうやって玲奈ちゃんをとおして好きなものや見たいこと、やってみたいことが増えていく。ありがたい話や。次回の舞台がもう楽しみ。

 

そして大事なことなのでもう一度言いますけど、再演してください。

でも再演されたら再演されたで喜び勇んでみに行って、終わった後また「サイエン、サイエンシテ……」ってくりかえすんだろうな。無限ループ。再演ババアの誕生である。